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□ フーテンの寅さんから商売を学べ

 「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します」。
 高槻と島本の税理士 テンポの良いおなじみの名セリフを懐かしく思い出す方も多いでしょう。
 22年前に渥美清さんが亡くなったとき、フランスのル・モンド誌は「下町の英雄、寅さん逝く」と題した渥美清さんの評伝を掲載しました。
 鞄ひとつで日本全国を気ままに旅する寅さんは、日本人が憧れる「小さな自由」を映画の中で具現していると述べ、寅さんを演じた渥美さんを「劇中の人物になりきったまれな役者」と高く評価しました。
 寅さんのあの自由さはどこからやって来るのか。
 「フーテン」とは仕事も学業もしないでブラブラしている人のことですが、寅さんは、実はたいした商売人だったのではないでしょうか。
 『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』にこんなシーンがありました。
 靴の会社で営業をしている甥っ子の満男が、仕事がつまらないと愚痴をこぼします。
 それを聞いた寅さんは、そのへんにあった鉛筆を満男に渡して「オレに売ってみな」と言うのです。
 満男はしぶしぶと「この鉛筆を買ってください」と寅さんにセールスをします。
 「消しゴム付きですよ」と特長をアピールしますが「僕は字を書かないから鉛筆なんて必要ありません」とすげなく断られてしまいます。
 高槻と島本の税理士 満男が「こんな鉛筆は売りようがない」とさじを投げると、寅さんは満男から鉛筆を取り上げて「この鉛筆を見るとな、おふくろのことを思い出してしょうがねぇんだ」と、鉛筆にまつわる話をしみじみと語り始めました。
 もちろん即興の作り話ですが、これが実にうまいのです。
 細い目をもっと細めて、本当に懐かしそうに鉛筆を見ながら情感たっぷりにあの名調子で語ると、その場にいた家族全員が寅さんの話に心を奪われ、みんなその鉛筆が欲しくなってしまうのでした。
 鉛筆を「モノ」として売ろうとした満男と、鉛筆の「価値」を伝えた寅さん。
 つまり寅さんは、物を売るとはどういうことかを満男に実演して見せたのです。
 「どんな価値を付けるのか」今一度、自身の商売を見つめ直してみたいですね。

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