□ 人の一寸我が一尺
武士で教育者だった吉田松陰は、多くの優秀な弟子を育てたことで知られる「人育て」の達人でした。
その松蔭が人育ての極意としていたのは「他人の欠点を指摘せず、長所を伸ばす」でした。まさにその通りだと思いますが、実際には人の長所より欠点に目が行くほうが多いように思います。
人の良いところを見付けてほめるより、欠点を指摘するほうがずっと簡単なのは「人の一寸、我が一尺」だからでしょう。
人の欠点はほんのわずかでも目に付くけれど、自分の欠点は大きなものでも気が付きにくい。
これが「人の一寸、我が一尺」です。
世の中には他人の欠点を指摘することに意欲を発揮する人がいるようです。
自分のことは棚に上げ、人の欠点を目ざとく見付けては指摘する人は「親切に教えてあげているのだから感謝してね」と思っているかもしれませんが、実はその態度が最大の欠点かもしれないことに本人は気付いていないようです。
もし「これはどうしても言ってあげたほうがいい」と思うなら、相手を否定することなく心に届くように伝える技術が必要です。
しかし、人の欠点を指摘するのは簡単でも、 それを上手に伝えるのはとても難しいもので、だからこそ相手の欠点を上手に伝えられる人は信頼されて一目置かれるのでしょう。
相手の気になる欠点が、裏を返せば自分の欠点だったという場合も少なくありません。
自分が気にしているからこそ、相手が同じことをしたら気になって仕方ないのですが、お互いの欠けている部分を否定しあっていたら人間関係はあっという間に崩れ去ります。
従業員、部下、取引先、顧客。商売はいろいろな人間関係が交差する立体交差点のようなもの。
「人の一寸我が一尺」ではあっという間に事故が起こるでしょう。
あなたの周囲の人たちもあなたの欠点を見逃してくれているはずです。
世の中は、持ちつ持たれつ。
できるだけ相手の良いところを見てお付き合いをしていくことは、相手のためというより自分の器を大きくするチャンスだと捉えたいものですね。