南太平洋の島国、パラオ共和国に在住している日本人についての話で、知り合いから聞いた話です。
その男性と仲間5人を乗せたヨットは、日本を出てすぐに難破しました。
積んであった食べ物が底を尽いた後は、時々ヨットに近寄ってくる魚やヨットの近くまで飛んでくる鳥を、素手で捕まえては生のまま食べたそうです。
そんな漂流生活が1ヶ月間ほど続いたとき、たまたま近くを通りかかった船に助けられたのはその男性だけで、仲間5人はすでに海の底に葬られた後でした。
「なぜ自分だけが助かったのか」 生き残った男性は、繰り返し考えたそうです。
自分は、仲間たちより体力があったのかもしれない。 いや、単に運が良かっただけなのか。
それとも自分にはまだ生きてやるべきことが残っており、神様が生かしてくださったのか――。
何度も何度もいろいろなことを考えてみたけれど、結局最後にはいつも同じ答えに行き着いてしまうのだと言います。
「『もうダメだ…』 と思った人から死んでいった。 最後まで希望を捨てなかった自分だけが助かった」
まるで映画のような出来過ぎたセリフです。
本人も 「運良く生き残れたから、後付けで言っているのかも」 と少し自嘲気味におちゃらけます。
それでも、彼だけが生き残ったのは事実です。
そして彼は、生死の狭間を行き交 うような漂流生活を体験し、その漂流で大事な仲間を5人も亡くしながら、いまだにヨットで海に出ます。
当時の出来事がフラッシュバックのように蘇り、そのときの恐怖で心臓が破裂しそうなほど胸が苦しくなっても、「まだやれる」 という気持ちが折れない限りヨットを手放すつもりはないと言います。
巷には、「不景気」 という海で漂流している多くの経営者がいます。
「希望」などという精神論は聞き飽きたかもしれませんが、事態が深刻なときほどシンプルな発想が必要となります。
人間には、飛んでいる鳥を素手で捕まえられるほどの底力があるのですから。 |
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